SL-2100 1990年11月

投稿者: | 2023-05-26

ベータマックス15周年モデル・SL-2100です。
型番だけだと「なぜノーマルのベータ? ハイバンドだって、何ならEDベータだっていいじゃない?」と思うはず。
発売時期から考えても(EDベータ初号機・EDV-9000の発売は1987年10月)「何でEDベータじゃないの!」と思うはず。現に自分もそうでした。
本機が出た1990年。この時代背景はというと、こういう状態だった。
VHS:既にS-VHS機が上位・中位機種に。ソニーですらこの年の2月にSLV-R7という機種を販売したぐらい。
また、1月8日にはS-VHSのデジタルオーディオ記録規格も発表。(製品化は1991年末のビクター・HR-Z1)
8mmビデオ:前年4月にHi8の機種が。(CCD-V900/EV-S900) また2月発売のCCD-V5000はPCM/AFM・Hi-Fi同時記録も。
こういう時代背景ならばこそ、EDベータじゃないのか?って思われても不思議ではない。しかし本機種はハイバンド・ベータHi-Fi機種。
まあ自分も購入した際、上司に「何で今頃ベータ機? しかもEDベータ対応機じゃなくて?」って突っ込まれたぐらいだったので。

カタログ文を見ると「いかにもベータマックスの原点に還ってみました」的な文面ではありますが、
裏を返せばEDベータが出る3年前(1984.1.25~28)の新聞広告
「ベータマックスはなくなるの?」「ベータマックスを買うと損するの?」・・・答えは(どちらも)もちろん、ノー!
「ベータマックスはこれからどうなるの?」・・・もちろん発展し続けます・・・などとネガティブな感じに進めた後、
「ますます面白くなるベータマックス!」と最終日に締めたのだが、結局はこの広告が決定的なものとなりシェア激減。
その結果、1988年にVHS方式のビデオも併売する形になったわけでして。
(余談だが、1988年からの2年間発売された機種は日立からのOEM。丁度この頃、自分は(部署は別だが)この生産工場に。
同期入社の方から、この話を聞いたことが。「今その生産やっているところ」などと。)
そういう時代背景からして一度原点回帰してみようという意気込みは感じられそうなものではあるが、8mmビデオやら
VHS、更にはレーザーディスク(この頃は自社生産が軌道に乗り始めたことも背景に)の開発にへと主要メンバーが離れた故、
新規に開発できるほどのパワーがなかったからかも知れない。それ故の原点回帰という捉え方。
でも、信号処理系など共用できそうなところは最新鋭の技術を使おうではないかということか。

ちなみにベータマックス10周年記念モデルはSL-HF900というハイバンドベータという「一応の」新技術搭載機でした。
何故「一応」という表記をしたのかというと、Hi-Fi記録方式がVHSの記録方式(深層記録方式:テープの下層に
音声記録をする形)とは異なり、音声信号を周波数変調し、色信号と輝度信号の空白帯に記録するという
AFM(Audio Frequency Modulation)方式を採用したから。当時のカタログではその詳細は記載されていなかったのですが、
実際は輝度信号に干渉してしまい画質劣化を起こしていた。初号機・SL-HF77に関しては初期と末期では画質が異なっていたとの話も
あったとかで。そういうこともあってか輝度信号を上げる形:ハイバンド化に至ったという背景があったりします。

型式:SL-2100。 p2の文面から察するに、21世紀に向かうベータマックスの在り方という意味合いもあるのかも?

さて、その全貌。テレビ以外で記銘板が中央にくるのは余程のこと。かつてあったカセットデッキ・TC-FX1010以上の衝撃。
テープ挿入口はおろか、電源ボタンすら露呈されてない。各機能・状態表示とリニアカウンター。チャンネル・時刻表示に
右端の回転するテープ走行状態表示なんですが、すべて表示部は奥側。で、操作はどうするかというと・・・

そうリモコン1つ。確かに斬新といえばそうなのかも。しかもこのリモコン、各操作毎に表示を変えるという。
現在だったらクレーム間違いなし。だってちっともユーザーフレンドリーじゃない。
ブラインドタッチは絶対不可能。すべて英字表記だし。
あと世代が世代故、このタッチパネル式液晶は感圧式。経年変化で反応が鈍くなります。
それともう1つ。録画予約操作はリモコン側「のみ」! 故障したら本体側では出来ません。

そしてヘッド部、信号処理系。ここはもう完全に大鉈を振るったというところか。
まずヘッド部。HF900/HF3000に採用したD.A.(ダブルアジマス)4ヘッドではなく、新開発のOPT-4ヘッド。
どちらかというと再生に特化した感がある前者に対し、カセットデッキの3ヘッド機の如く、録画/再生に
各々ギャップ長を合わせた(つまりOptimized:最適化)のが本機のヘッドということ。
これにより各特性の向上、更には従来モデルで記録したテープですら恩恵を受けるという。
一方の信号処理系ですが、ビデオDSP(Digital Signal Processor)搭載によるベータマックス初のデジタル処理。というか、
コンベンショナル(EDベータ/S-VHSとかではない)ビデオでも初。
(1989年に初搭載した東芝・A-L91はS-VHS機。但し、Y/C分離フィルターのみ。)
今までのベータマックスではデジタル処理は静止・スローなどの特殊再生処理でしか扱っていないから、抜本的な高画質化を
望んでいた方には、本機はまさに待ちに待った機種だったかと。βIs・SHB-βIsモードもしっかり録画・再生共に対応。

あとSL-J7J9-F11/J30などのノーマル音声トラックでのステレオ/二重音声記録可能だったベータユーザーに朗報が。
本機はなんとノーマル音声トラックのステレオ/二重音声再生対応。しかもBNR(ベータノイズリダクション)搭載。
それからコンベンショナルビデオで唯一、S映像端子での接続も可能(BS入力以外)。
操作系もすべてタッチパネル。英文表記。前記の通り本体側ではタイマー設定は出来ません。


実際に本機を所有していたので、ちょっと使用感とかを。
前記通りこの頃は流石にメインじゃなくサブ的な位置での使用でしたが、メインに肉薄するぐらいの画質でした。
(ちなみにメインは文中にも出てきた東芝・A-L91(左下の画像)→ビクター・HR-20000(右下)。何だかこういう風に書くと、
特にHR-20000ユーザーからクレームが来るような言い回しだが、あくまでも「肉薄」だからね!)
故に編集の際はS端子結線必須。ダビング時の劣化をそれほど感じられなかったぐらいの出来。

ただ、使い勝手はどうだったかというと、冗談抜きで悪かった。とにかくタイマー設定の面倒なこと。
特にメインを後者に変えてからは(まあGコード予約が出来たこともあったからではあるが)。
あとは経年変化によるタッチパネルの反応劣化。感圧式だったが故、使用頻度の高い個所から反応が鈍くなる。
特に録画ボタンに関しては双方同時に押さなければならないため、反応の鈍さが仇になることもしばしば。
それからリモコンに関してはバグ表示もあったかな。

価格に関してですが、¥180,000(税抜)。コンベンショナル・ベータで考えると正直高いかと。同価格帯で既にS-VHS機買えたからね。
例えば1989年発売の業界初、ミッドマウント方式を採用した三洋電機・VZ-CS1、¥163,000(税抜)。
三菱電機のラインナップが結構あって、本機と同時期に出ていたHV-S95、¥148,000(税抜)。
別件で挙げたことがある日本ビクターのS-VHS/S-VHS-Cコンパチブルビデオ・HR-SC1000、¥175,000(税抜)・・・ってな具合。
(参考までに、KW-3600HDの処に掲載されていたBS(アナログ)チューナー内蔵Hi8ビデオデッキ・EV-BS3000は¥198,000(税抜)。)
ただ、もし本機がEDベータ対応だったならば、この価格でいけたかどうかは疑問。というのも価格比較として挙げた機種はまだ信号処理系に
デジタル技術は採用していない。文中に幾度か上がっている東芝・A-L91。こちらはY/C分離処理をデジタル化しているが、他はアナログ処理
だったりする。この機種の価格は¥220,000(税抜)。仮に本機をEDベータ対応にした場合、EDV-9000の扱いをどうしただろうか?
それを考慮すると、価格設定も難しくなるかと。ちなみにEDV-9000の価格は¥295,000(税抜)。普通に考えればこれ以上になるかと。
余談だが、EDベータ対応機ってEDV-9000を基準にそこからの引き算的な機種しか出ていないような・・・

あとデザインについて。本機以降の製品がEDV-5000の後継機種・EDV-6000と本機を削ぎ落した感しかしないSL-200Dだけということからして、
初めのほうでは「21世紀に向かうベータマックスの在り方」と書いてはいるが、何処となく「ベータマックスの墓標」にも思えてきてならない。

SL-2100 1990年11月」への2件のフィードバック

  1. 瑞鶴

     なぜSL-2100がEDではないのか。私の聞いた話ではベータ所有者にアンケートをとった結果、今までのテープをきちんと再生できるものをという要望が最も多かったからと聞いています。私も購入してしまいましたが、予約していたにもかかわらず発売日から何ヶ月も待たされました。遅れたことについての詫び状が届いた記憶があります。
     リモコンは確かに使いにくかったですね。キー部分を押すと「カチッ」と音が出ますが、あれはリレーの音だそうで、音のためだけにリレーを使っていたということです。私は主にSL-HF900のリモコンで操作していました。

     Hi-Bandとは、おっしゃる通り結局Hi-Fi音声で削られた解像度を取り戻すためのものでしかなかったですね。ラジオ技術誌よれば、解像度の理論値がノーマルベータが255本なのに、初期のHi-Fiは200本程度だとか。隠れHi-Bandの400kHzキャリアアップで230本とようやくVHS並になり、正式なHi-Bandの800kHzキャリアアップで260本となってようやくノーマルベータに追いついたわけです。当時HF900でテストパターンを録画して解像度を確認したのですが、250本強ありました。Hi-Fiをオフにすると280本程度になりましたが、エッジが汚くなって実用的ではありませんでした。それが2100ではDSPの効果か、Hi-Fiオンでも270本以上ありました。HF900で録画したものでも、その自己録再以上の解像度が得られたので驚いたものです。
     解像度の話で思い出しましたが、当時東芝のVHS機が高解像度(ラジオ技術のテストで250本)と評判だったのですが、密かに100~200kHz程度キャリアアップをしていたのでは、という噂がありました。

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    1. GON-HK

      コメント文中のアンケートに関してですが、確かビデオサロンにそういう記載がありました。その技術者インタビュー記事に
      社内ではED化というのもあったが、この際だからユーザーアンケートを取ってみようということになり、その結果が
      ED化を抑えて文中通りの過去の記録したテープをきちんと再生できるベータに・・・という要望が多かった故、方向性を変えたと。
      ただ新規開発するにも人材が・・・というところで、信号処理系開発に関しては他のプロジェクトから応援を要請したとか。
      でも、ヘッドも新規だったから、この辺りはどうだったか・・・。

      返信

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